2026年09月09日

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競走馬の複雑な栄養管理ノウハウをAIへ実装。15年分のデータを反映した「ファームコンサルAI」で挑む、人材教育の平準化

北海道浦河町を拠点に、競走馬向け飼料の販売や独自の「ファームコンサルティング」を展開する株式会社ホクチク。同社は15年以上にわたり、季節やライフステージごとに無数の変数が絡み合う高度な栄養管理ノウハウを現場で蓄積してきた。

この長年培った独自の知見を次世代へ継承し、さらなる現場の業務効率化を推進するため、同社が選んだのが卸売・小売業界特化型の生成AIエージェント「商/Akinai(以下、Akinai)」である。導入にいたる経緯から日常業務での活用成果、そして現在、燈と共に構築を進めている「ファームコンサルAI」まで、同社営業部の松谷陽介氏に伺った。

競走馬の命と健康を「食」から守る。ホクチクの事業と独自の強み

ーー本日はよろしくお願いします。まず、貴社の事業内容について教えてください。

当社の主な事業は、競走馬牧場に対する牧草や配合飼料の販売です。私たちは一般的な卸売・小売のように商社や仲介業者を挟むのではなく、北米産を中心とした輸入牧草を直接買い付けています。実際に現地へ出向いて自分たちの目で確かめ、成分や品質にこだわった調達を行なっているのが特徴です。

さらに、こうした独自の直接調達だけでなく、加工部門を子会社化して自社での飼料製造も行っています。これにより、現場の細かいニーズを反映した独自の配合飼料をリーズナブルに提供できる点が強みとなっています。

ーー貴社が提供する「ファームコンサルティング」についても教えてください。

日本の馬の世界は、病気や骨折が起きてから治す「獣医領域」の研究に偏りがちです。それに対し私たちは、人間と同じように、糖尿病や肥満を防ぐための「日々の予防」や「食・栄養」の観点を重視しています。ただ、国内ではこの領域の研究が非常に少ないため、常に海外の文献から知見をインプットし、日高地方の現場に応用するアプローチを続けてきました。

この思想のもと、2010年から開始したのが当社独自の「ファームコンサルティング」です。提携する獣医師と連携しながら、約30の牧場へ定期的に足を運び、それぞれの牧場に最適化したオリジナルレポートを提供し続けてきました。私たちはこれを飼料販売のアフターフォローとして無償で提供していますが、これほどの規模感で定期訪問を重ね、広範な頭数をカバーしている例は業界内でもほかにないと自負しています。

紙のDMから始まった出会いと、スムーズなAI導入のプロセス

ーーAkinai導入前は、どのような課題を感じていたのですか?

以前から、漠然と業務効率化のためにAIを活用したいという思いがありました。同時に、現在強みとしているコンサルティングのようなナレッジワークも、定型的な整理やアシスト業務は徹底的にAIに任せ、私たちは「人間にしかできない仕事」に集中しようと考えたのです。

例えば、AIでは牧場で馬のフンを採取して細かく観察するといった、現場の一次情報を集めることはできません。そうした現場でしか生み出せない付加価値の高い仕事に、人間がシフトするための切り分けが必要でした。

また、もう一つの課題として「属人化」がありました。高度なノウハウが獣医や私の頭の中にしかなく、いずれナレッジが途絶えてしまうという強い危機感を抱いていたのです。

ーーAkinaiを知ったきっかけと、導入の決め手を教えてください。

きっかけは、燈さんから届いた1通の手紙でした。ちょうどAIによる業務効率化を模索していたタイミングだったため、話を聞いてみようと思ったのです。

また、決め手となったのは初回の打ち合わせでした。燈の皆さんは馬の業界のことを知らないはずなのに、提示されたAkinaiによる出力結果が、まるで業界を昔から熟知しているかのような非常に解像度の高い内容になっていて、大きな衝撃を受けました。

私たちの業界は「現場の経験」がすべてであるため、誰もがゼロからのスタートとなり、人材教育に膨大な時間がかかります。Akinaiが持つ高度な知識量と出力精度があれば、若い世代が早期に活躍するための強力な武器になると感じ、導入を決めました。

ーー初めてのAI導入において、社内でのプロセスはスムーズでしたか?

非常にスムーズでした。特に大きかったのは、導入初期に燈さんが実施してくれた勉強会です。私たちは当時、「プロンプト」という言葉すら知らない状態でしたが、勉強会を通じて「AIを活用すれば具体的にどのようなことができるのか」を、実演を交えて示していただけたことで、社内の心理的ハードルが一気に下がりました。

単にシステムを提供するだけでなく、私たちの目線に合わせて、導入のスタートラインから丁寧に伴走してくださる姿勢が非常に心強かったです。

日常業務での活用と、言葉選びの心理的ハードルからの解放

ーー社内では、現在どのようにAkinaiを活用されていますか?

主に「壁打ち」と「文章作成」の2つで使っています。たとえば、外部へ重要なメッセージを送る際、角を立てずに意図を伝える表現や推敲にはどうしても神経を使いますし、以前はゼロから文章を考えるのに30分ほどかかってしまうこともありました。

そこで、箇条書きのメモをAkinaiに渡してベースとなる下書きを作成してもらい、それを自身で最終調整するスタイルに変えたんです。AIに丸投げするのではなく、下書き作成の時間を大幅に短縮した上で、最後は人間が責任を持って仕上げる。そうした活用の仕方をすることで、文面の質を保ちながら、これまで30分かかっていた作業が5分ほどで完了するようになりました。

ーーほかの社員の皆さんの活用状況はいかがでしょうか?

多少の濃淡はありますが、意外なメンバーが積極的に使いこなしています。現場主導で動いている、一見デジタルツールとは縁遠そうに見えるメンバーが、日常的にうまく活用してくれているんです。

打ち合わせの報告や文書の下書きなどにAkinaiを使っているのですが、上がってくる文章を見ると「これは明らかにAIに書かせたな」と分かる、きれいに整理された文章が上がってきます(笑)。ですが、それで全く構わないし、それこそが私の狙いです。余計な時間を割くくらいなら、AIを使って一瞬で終わらせ、空いた時間で現場の馬やお客さまと向き合ってもらう方が、よほど価値があるからです。

15年分のデータを宿す「ファームコンサルAI」構想と、これからの展望

ーー現在取り組んでいる「ファームコンサルAI」構想について教えてください。

長年培ってきたノウハウをシステム化し、若手でも高品質な提案ができる仕組みの構築を進めています。

当社には、過去15年以上にわたり蓄積した数千件のレポートという資産があります。馬の栄養管理は極めて複雑です。季節やライフステージなどの変数が多く、ベテランの判断基準を若手が再現するのは容易ではありません。

そこで、独自のデータを組み込んで「自社専用AI」を構築できるAkinaiを活用し、これまでの知見を反映したAIアドバイザーの実現を目指しています。

その第一歩として、まずは1つの牧場の11年分(約100件)の総評データをAkinaiに読み込ませ、判断基準となる「教科書」を作成しました。現段階ですでに6〜7割の精度に達しており、過去の熟練した判断基準を的確に参照・補完できるベースが整いつつあります。

ーー今後の具体的な進捗イメージや、目指すゴールはどこにありますか?

総評データに続き、現在は「馬一頭ごとのコメントデータ」の読み込みに着手しています。

目指しているのは、レポート作成の効率化です。現状は現場のメモをExcelに起こし、さらに1からレポートを作成し、提携獣医師へ確認を取るという作業が発生しています。しかし、Akinaiに当社の知見をシステム化できれば、現場の状況を入力するだけで、長年のノウハウに基づいたレポートのベースが生成され、人間がより深い考察やチェックに時間を割けるようになります。

これにより工数を大きく削減できるだけでなく、将来的には馬の履歴、体重、飼料の推移をすべて格納し、必要な時に過去のデータを呼び出せる「カルテ」のようなデータベースとしても活用していきたいと考えています。

ーーありがとうございます。最後に、この挑戦にかける想いを聞かせてください。

私たちの仕事は、単に注文に応じて商品を販売することではありません。大切な馬の状況や放牧地の状態をしっかりと見極め、お客さまの真のニーズに合わせた適切な飼料や飼養方法をアドバイスすることこそが、私たちが提供すべき本質的な価値です。

AIはあくまで私たちの知見をサポートし、対話や観察の精度を高めるためのパートナーです。AIという強力なパートナーを得たからこそ、私たちはより深く現場と向き合い、この本質的な価値を次世代へとつないでいきたいと考えています。

未踏の領域ゆえに一筋縄ではいかない部分もありますが、これからも燈さんと共に現場でのトライアンドエラーを積み重ねながら、この新しい挑戦を確かな形にしていきたいです。